2007. 5. 8〜9
山こじ通信vol.22
黒戸尾根から甲斐駒ヶ岳




◎黒戸尾根
 日本アルプスで一番つらい登りは、この甲斐駒ヶ岳の表参道かもしれない。 
何しろ六百米くらいの麓から、三千米に近い頂上まで、殆んど登りずくめである。
わが国の山で、その足許からてっぺんまで二千四百米の高度差を持っているのは、富士山以
外にはあるまい。 
 深田久弥 『日本百名山』より

◎甲斐駒ヶ岳(2967m)
 日本アルプスで一番代表的なピラミッドは、と問われたら、私は真っ先にこの駒ヶ岳をあげ
よう。 
その金字塔の本領は、八ヶ岳や霧が峰や北アルプスから望んだ時、いよいよ発揮される。 
南アルプスの巨峰群が重畳している中に、この端正な三角錐はその仲間から少し離れて、は
なはだ個性的な姿勢で立っている。 
まさしく毅然という形容に値する威と品をそなえた山容である。
 日本アルプスで一番奇麗な頂上は、と訊かれても、やはり私は甲斐駒をあげよう。
眺望の豊かなことは言うまでもないとして、花崗岩の白砂を敷きつめた頂上の美しさを推した
いのである。
 深田久弥 『日本百名山』より


山行き行程(1泊2日 2007.5.8〜9)
第一日目(予定歩行時間 7:00) 撮影+小休止含み 8:04

05:20〜05:30・・・・・・・・・・・07:44〜08:00・・・・10:30〜11:00・・・・12:10〜12:30・・・・・・・14:40   
竹宇駒ケ岳神社 (2:30) 笹ノ平 (2:00) 刀利天狗 (1:20) 5合目 (1:10) 七丈小屋(泊)
   775m     (2:14) 1530m (2:30)  2049m   (1:10) 2180m (2:10)   2360m

第二日目予定(歩行時間 8:20だったが・・・) 撮影+小休止含み 5:00

 う〜〜ぅ残念!!  撤退!!
七丈小屋 (1:00) 八合目御来迎場 (1:30) 甲斐駒ヶ岳 (0:50) 八合目 (0:40)

06:10・・・・・・・・・・・・・・07:10〜07:30・・・・・08:15〜08:45・・・・・・・・・10:05・・・・・・・・・・・・・・・・・11:50
七丈小屋 (0:50) 五合目 (0:50) 刀利天狗 (1:10) 笹ノ平 (1:30) 竹宇駒ケ岳神社
       (1:00)               (0:45)                  (1:20)              (1:45)


いよいよ春山第2弾として黒戸尾根から甲斐駒を目指す事にした。
なんてったって、『つらい』『長い』『急登』の三拍子だ。
(いくら信仰の道と言っても、ほとんど自虐的趣味じゃなきゃ誰も行く訳が無い!)
でも・・・いるんだなこういう人達が。 
ネットで調べると結構皆さん登っていらっしゃるじゃあ〜りませんか。 
それも積雪期に! 冬山は自信の無い山こじも春山ならと挑戦してきました。
結果的には撤退で終わりましたが・・・。

前日の7日から1週間遅れのGWを貰った山こじは夕方の4時頃に出発。
いつも、睡眠不足で登っているが今回はそんな気軽な気持ちでは挑戦できる相手ではない。
誰ァ〜れもいない尾白渓谷駐車場に着き、一人で夕食を摂り前祝のビールを飲みながら車
中泊という、万全(?)の体制で朝を迎えた。

04:00頃に1台だけ登山者の車が来ただけで、今日は2人だけしか登らないのか?
そうだ!今日は平日だった。 世間の人達は休み明けで仕事をしているんだっけ。
前回の八ヶ岳と同じだ!

まだ薄暗い05:20に出発。 まずは竹宇駒ケ岳神社で山旅の無事を祈ってと・・・。
神社の横の吊り橋からガイドブックのコースタイムは始まる。

 



 

今度この橋を渡る時は、満足した顔で渡れるだろうか? (結果的には半々かな)
尾白川渓谷への道との分岐を過ぎ、いよいよ長い尾根登りの始まりだ。
結構な急登で一気に標高を稼ぐ。 今日のザックはテント泊なので20s以上はある。
天然水で有名な白州なのに、途中の水場が無いので3リットルも水を背負っている。
                                         (=3キロだ)
肩に食い込む重さの中身を、いつもブツブツ考えながら登る。
 
「あれもこれもとザックに入れ過ぎたんじゃないか?」
「エ〜と、テントが2キロ、水が3キロ、ビールが2本で0.7キロ・・・。」

すでに出発しているのだから今さらどうしようもないのだが・・・。
今日は暑いので大汗をかいて、笹ノ平に到着。

 

ここで休憩をしている時に、今朝車で到着した人に先行される。
なんでも、20年振りの甲斐駒らしい。 まっ、七丈小屋で会えるだろう。
ここからの八丁登りは長い! 
ゼェ〜ハァ〜 ゼェ〜ハァ〜 息を弾ませ汗だくになって頑張る。

 

ところどころ道の脇には石仏○○行者という祠が鎮座している。
こんな重い物を持ち上げるとは、信仰の力はすごい!と感心してしまう。
やがて、刃渡りに到着。 べつにたいしたことは無い。 氷結もしていない時は油断さえしてい
なければ大丈夫!

 



少し行くと刀利天狗に到着。 ここも祠やら何やらすごい!
とりあえず、ここでも道中の無事を祈る。

 

ここから、標高も2000mを超え残雪が出てきた。 しばらくはキックステップで頑張っていたが、
この先ず〜と雪は続く筈なのでアイゼンを装着。
今回はストックも雪用のバスケットにしてある。
しだいに、雪は多くなり踏み跡を外れると「ズボッ」と膝下まで潜る。
まるで、幅20pくらいの平均台が雪の下に隠れているみたいだ。
黒戸山を巻いている道が下りに差し掛かると、そこが五合目小屋だった。12:10

 

今日は七丈小屋までなので、時間に余裕がある。
探究心が旺盛な山こじは小屋の中を覗き柱の傾き具合にびびる!
よくぞ!これで今年の冬を持ちこたえたと感心!感心!
ネットでは、誰も書いていないが、山こじは小屋の裏にもまわってみた。
そこには、五合目小屋功労者のレリーフがあり五丈石と言われる石を人力で穿ったとい
われる祈祷所があった。
またまた、探究心(やじうま!)旺盛な山こじは戸締りしている隙間から中を覗くと・・・、そこに
あったのは、小屋で使っていたと思われる鍋・お釜の類がほうり込んであった。
                                  (ちょっとがっかり)

 



五合目小屋を出発して、すぐに屏風小屋跡があり、またも石仏や祠が物凄い数で並んでい
る。 新しいのは平成のもあった。 その横の階段から本格的な難所の連続だ。



今でこそ、チェーンやロープや階段・はしごと備えてあるが、昔はもっと粗末な状態だったろう。
 深田久弥氏が登られた頃もだが、甲斐駒信仰の始めの頃は大変な決意で登ってきたのだ
ろう。 ここまで整備してもらっている現在の登山者は感謝して無事故で登らせてもらわなけれ
ばいけないと思った。 
しかし、難所は難所に変わりがない。 
階段にしろ、チェーンやロープにしろ、腕力を使う。
階段なんかは腕立て伏せみたいだし、チェーンやロープは20キロも背負っているから結構シン
ドイ! なかでも一番嫌だったのが花崗岩に踏み代が10cm位のステップの所だ。
氷結していなくて本当に良かった。

 

 



厳冬期に登られた人は大変だったのではないだろうか?
これで難所は終わり、腐った雪に足をとられながらも進むといきなり七丈小屋に到着。



アイゼンをはずし、テントの受付と命のビール(?)を2本買い、テン場へと向かう。
第2小屋の横の登山道を歩いて5〜6分とあるが3段程だが階段である。
左手にアイゼンとストック、右手に大事なビール2本・・・!?
これでは、歩いていけないのでザックにビールを詰め雪の多いテン場へと向かう。
午後で雪が柔らかいのか、足が潜る。 
今回の最大の難所は小屋からテン場までの間にあった。
                       (プチ遭難事件発生!!)
ザックを含めると90キロに近い山こじの左足は足の付け根まで潜ってしまった。
足を引き抜こうと腕に力を込めると股関節が抜けそうになる!
ヤぁ〜バイ!! どうしよう・・・。 そうだ!ピッケルで雪を掘ろう。
幸いにも左足側が谷側だったので少し横を崩せば足は抜け出せた。
フ〜やれやれ。 と思ったら2〜3歩でまたも左足が潜った。
今度は30p位は掘らなければ出られなかった。
そんなこんなで脱出に10分位はかかった。
ピッケルを持っていなかったらと思うとぞォ〜とする。

 
 
雪山では、何をするにせよ、
 ピッケルを持って行動しなければと再確認させられた。
小屋とテン場の間で遭難して、
  凍死でもした日には恥ずかしくて目も当てられない!
テン場では先行者が、すでにお昼寝タイムだった。
山こじより遥かに足が強い人だ、まだまだ修行が足りないと反省。
テントを設営し、やっと今日の行程が終了した。 とりあえず、ビールで乾杯!

 

いつもの、ラーメンとアルファ米の食事を食べ、いつの間にか寝てしまった。
17:00より前に寝てしまって20:00頃目を覚ますと、物凄い風が吹いている。
例えるなら、ジェット機のうなっているような音の後に吹き降ろしのような強風(烈風?)
とでも言いたい様な風がテントを壊す様な勢いで吹き狂っている。

昨日、小屋番さんに言われた事を思い出す。
8合目までは腐った雪でズボズボ
         そこから上はツルツル、ピカピカの状態だよ。
 GWが終わったので、それまで張っていたフィクスロープも回収してしまっている。
 登れるだろうけれど、降りるのは・・・。」

山こじテントの中で考えた。 
とても、頂上アタックどころではない! 
ツルツル、ピカピカの所で耐風姿勢なんかとっている場合ではない!
ましてや、8合目までに腐った雪に潜ったりして体力を使い込んでしまう。
入山しているのは、自分と先行者の2人だけだ。後続はいない!
この強風では
誰も助けに来ないし、遭難しても小屋番さんが戻ってこないのに気づいた時には、
             こっちがコチコチになっている。

隣のテントの中でも自問自答が繰り返されていると思ったら、05:00頃、
      完全武装で先行者の人が出てきた。

山こじ 「頂上へ行くんですか?」  (まさか・・・ねぇ)

先行者 「行かないんですか?」   どっひゃぁ〜っ!! マジかよ?!)

山こじ 「私は諦めました。 (だってビビってますもん) 
      アイスクライミングの技術もないし、
       凍りついた斜面を登った経験も無いので。
                くれぐれも、気をつけて行ってください。」

アイゼンの効き具合を確かめるような足運びの先行者の後ろ姿をしばらく見送っていた。

 



さぁ〜、こっちも出発だ!06:10  先輩を心配するなんて100年早い!)
強風の中、テントを持っていかれないように、なり振りかまわずザックに押し込み、雪が硬い朝
のうちに五合目小屋まで行かなくては、昨日の二の舞になる。
しかし、昨夜の強風にもかかわらず、 テン場から小屋までの雪の状態は昨日と変わっていな
かった。 やっぱり、ちょっとでも踏み外すと膝位までは潜る。
テン場より上は雪の量も多いから大丈夫だろうか?
しかし、山こじにはどうする事もできないので、自分のことに集中する事にした。

何せ、長ァ〜い事で名高い尾根である。 
途中の難所もあるし、雪が無くなっても去年の大門沢での転倒事故の教訓がある。 

集中!集中!と自分に言い聞かせ足を潜らせつつも前進!前進!
昨日の難所の階段やはしごは後ろ向きでクリアして慎重に通過した。 
やっと、五合目小屋が見えた時には、さすがにほっとした。 

 



山こじは右膝に古傷があるので、右足を潜らせた拍子に捻ると捻挫では済まない事態にな
る。 だから、右足を無意識にかばっているのだろう。 
 

雪が無くなった後も長い尾根歩きはまだまだ続く・・・。

ストックでブレーキをかけている右手もマメができ、痛み出した右膝をかばってきた左足にもマ
メができてしまった。 

それでも尾根歩きはまだまだ続く・・・・。

やっとの事で吊り橋に着いた時には、クタクタだった。11:50
ほぼ6時間の奮闘だった。
 
やっぱり黒戸尾根は長い!!
追伸、今回はとっても役に立ったピッケル君でした。
                         (命の恩人)
          オジンの恩人だ!(あっ、すべった!)


帰宅して風呂上りに体重計に乗ったら体内年齢22歳と出た!
                (新記録更新!!)


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