2014.7.25〜30
山こじ通信 vol.43
槍ヶ岳・北鎌尾根
悲願達成 北鎌尾根単独踏破!
山行行程 (4泊5日) 2014.7.25〜29 |
第1日目 予定歩行時間 8時05分 (撮影+小休止 8時間08分) |
・ ・・・05:50・・・・・・・・・06:00・・・・・・・・・・09:22・・・・・・・・11:45・・・・・・・・・・・12:58〜13:30・・・・・14:30・・・・・・・ ・・三股P (20) 登山口 (3:30) 稜線 (2:30) 前常念岳 (1:00) 常念岳 (45) 常念小屋(幕) ・・・1275m・・(10)・・・・ ・・(3:22)・・2207m・(2:23)・・2662m・・・(1:13)・・2857m・・(1:00)・・2450m・・・・・ ・ |
第2日目 予定歩行時間 7時間20分 (撮影+小休止 8時間31分) |
・ ・・・05:15・・・・・・・・・・・・・07:04・・・・・・・・・08:15〜09:00・・・・・・09:35〜11:10・・・・・・・・・11:34・・・・・・・・・・ ・・常念小屋 (2:00) 東天井岳 (1:30) 大天荘 (40) 大天井ヒュッテ (20) 貧乏沢入口 (2:30) ・・・2450m・・・(1:49)・・・2814m・・・・(1:09)・・2870m・・(35)・・・・2650m・・・・・・(24)・・・・・・・・・・・・・(4:00) ・ ・・・15:34・・・・・・・・・・・・・・16:10・・・・・・ ・・天上沢出合 (20) 北鎌沢出合(幕) ・・・・・・・・・・・・・・(34)・・・・・・・・・・・・・・・ ・ |
第3日目 予定歩行時間 2時間30分 (撮影+小休止 3時間35分) |
・ ・・・05:06・・・・・・・・・・・・・・・・・08:41・・・・・ ・・北鎌沢出合 (2:30) 北鎌のコル(幕) ・・・・・・・・・・・・・・(3:35)・・・2540m・・・・・ ・ |
第4日目 予定歩行時間 6時間30分 (撮影+小休止 8時間18分) |
・ ・・・03:42・・・・・・・・・・・・・・・・07:02〜07:27・・・・・・・・・11:44〜12:13・・・・・・・・・・・12:54・・・・・・・・・・・・・・・ ・・北鎌のコル (2:30) 独標 (3:00) 北鎌平 (1:00) 槍ヶ岳(槍ヶ岳山荘泊) ・・・2540m・・・・・・(3:20)・・・・・2899m・・・・・(4:17)・・・・・・・・・・・・・・・・(41)・・・・・・・・・3180m・・・・・・・・・ ・ |
第5日目 予定歩行時間 12時間00分 (撮影+小休止 12時間01分) |
・ ・・・04:17・・・・・・・・・・・・・・07:23・・・・・・・・・・・・・・・・08:50・・・・・・・・09:32・・・・・・・・・・・12:27・・・・・・・ ・・槍ヶ岳山荘 (3:30) 槍沢ロッヂ (1:20) 横尾 (50) 槍見台 (3:00) 蝶ヶ岳 (1:40) ・・・3060m・・・・・(3:06)・・・1820m・・・・・(1:27)・・1615m・・(42)・・・・・・・・・(2:55)・・2677m・・(2:32) ・ ・・・14:59・・・・・・・・・・・・・・16:04・・・・・・・・・16:18 ・・まめうち平 (1:20) 登山口 (20) 三股P ・・・・・・・・・・・・・(1:05)・・・・・・・・・(14)・・1275m ・ |
今回の山行は登山歴10年目の総決算! 槍ヶ岳北鎌尾根!!
槍ヶ岳・北鎌尾根=山ヤと呼ばれたい好山病患者の認定試験?
初めて登山靴なる物を掃き、背中にはデイパックという初心者丸出しの格好、登頂の喜びよりも膝痛を持ち帰った登山だった。
あれから早いもので10年もの月日が過ぎてしまった・・・。
もはや中堅登山者(中年の間違いだろ)と見られてもいいような風貌(老けただけ)を持ち技量の方は?・・・の山こじだが、自分で自分の実力のほどを確かめるべく、またWeb上の先輩達が経験している北鎌尾根は避けられない課題だった。 去年は出鼻をくじかれて臆病風に吹かれしまい先送りにしてしまったが、もはや年齢的に先は苦しくなるばかりだ。
今年以外にはチャンスは無い!
今年やらなくて、来年も同じ位の体力を持続しているのか、
自分で自分の体力に自信が持てない!
そんな訳で、今回で43回目を迎える山行は、山こじの登山史上最難関、槍ヶ岳の北鎌尾根に挑戦することにした。
登山靴など必要のないスニーカーで歩く学校登山しか経験の無い山こじには、それでも結構な高さのハードルだったのだ。
その達成後は生意気にもメジャーな山域、八ヶ岳(赤岳2899m vol.16)とテント泊山行が憧れになった。
森林限界を超えた世界、砂礫、岩道、鎖場の続く稜線、猛々しく厳しい環境にあっても可憐に生息する高山植物・・・。
稜線から見渡せば、遮る物など無い北・中央・南アルプス、富士山まで・・・、素晴らしい展望が拡がる。樹林帯の地元の低山などでは得られない魅力に参ってしまった。
それも達成した後は、サイクリングで行ったことがある「上高地・北アルプス」になり、超ウルトラメジャーな北アの盟主と謳われる槍ヶ岳(3180m)の頂上に立ちたい!が目標になった。その夢が叶ったのが、2007年の山行・表銀座ルート(vol.23)からだった。
その頃には、漠然とではあるが、普通に登山と言う言葉で一括りにされてはいるが、ハイキング(主に一般登山道を歩く)、バリエーション(一般登山道以外も歩く)と、遥かな高いレベルでクライミング(完全に岩壁登攀を主体とする)などと色々な分野に分かれているのを知る事になる。(沢登りはシャワークライミング)
登山を始める前から持ち前の凝り性で耳学問ならぬ文字学問、古本屋で購入した「山と渓谷」「岳人」などのバックナンバーやガイド本で知った槍ヶ岳北鎌尾根という存在。
厳冬期の北鎌尾根では「単独行の加藤文太郎(昭和11年1月遭難 享年30歳)」、「風雪のビヴァークの松濤明(昭和24年1月遭難 享年26歳)」らの遭難劇が展開され、 山ヤなら当然誰もが知っている壮絶な歴史とロマンの憧れのクラシックルートだ。
当然、初心者やハイカーレベルなどが興味を持ったからといって気軽に立ち入る事など出来ない、厳しいバリエーションルートである。
残念ながら毎年、我こそはと挑んで北鎌の露となった同輩は数知れない。昨年の8月には、夏冬関わらず何度も踏破して北鎌に精通しているベテランの先輩も帰らぬ人となり、未だに発見すらされていない。
山こじの推理では、彼ほどのベテランが滑落事故を起こしたとは考えにくい。
未明の出発で水俣乗越から天上沢に降りる時に
熊の遭難に逢われたのではないかと考えている。
何でそんな危険な所へ行くのか?
それは自分にとってのけじめ(プライド?見栄)としか言えない。
仮にも登山を志したのなら、自分で自分に厳しく鞭を打って、ある程度のレベルまでは行かないと、お金ばかり掛けた金満ハイカーに成り下がってしまう。
技術の習得と鍛錬を積み重ねて、常に向上心を持った登山をする、山ヤでありたい。
登山の文化史 「戦時下の登山」より抜粋 「山男が山で死ぬほどバカげたことは無い」といった言葉に、私は簡単に唱和しえぬのを遺憾とする。 ドイツのウィンクラー、チグモンディ、英国のマンマリー、マロリー、日本の板倉、大島、そうした人々の死に、私はいつも感動するが、バカげたことと思ったことは一度もない。 そこには人間が何か偉大な事業をなす際にほとばしるところのものさえ実感することができる。 犬死と誰がいおう。 もとより「山登りする者は山で死ぬのが本望」などと、国家に捧ぐべき命を軽くあつかい、父母の嘆きを忘れて口ずさむことの軽薄なるは申すまでもないが、登山は慎重の極にも時として死と境を接するを免れぬことを覚悟せねばならない。 ただ一般の登山家といわれる人々のうちには、実はハイカーにすぎぬものが案外多いのであって(日本アルプスにもハイキングはあり得る)、山に対する何らの正しい、知識訓練も無くして山に登って死ぬ人がある。 これはハイカーが死んだのである。 われわれは自分がハイカーであるか登山家であるか、時々とくと考えてみる必要がある。(昔登山家で今はハイカーにすぎなくなっていることもありうる。 私自身も時々そう思って苦笑する。) 登山家といわれるためには、地図の見方はもとより、雪崩の知識、山スキー、岩登り等々を心得ていなくてはならない。 そして私はさきの言葉を「ハイカーが山で死ぬほどバカげたことはない」と言い改めたい。 娯楽で死ぬほどバカげたことはないのである。 (昭和18年 冬) |
・・・手厳しい、先輩の言葉だ。 ハイキングは楽しい娯楽
登山とは、普通の人が立ち入らない場所に好き好んで出かけるのだから、安易に人の手を借りる事など考えてはいけない。
岳人誌上(No806)で服部文祥氏が訴えた事を抜粋する。
登山とは、人間の生活圏から離れて、自然環境の中で山に登って帰ってくる行為です。 街より危険や困難が多く、命を失ったり、大きなケガをするリスクも高くなります。 そのような危ない所を登る文化が、社会的に許されているのはなぜでしょうか。 時に命がけの行為になるとわかっていても、それが許されるのは登山者が自力下山という覚悟を持って山に入るからです。 自分の力で戻って来るという「自己責任」を前提としているから、登山者は自分の自由意思で山に入る事ができるのです。 仮にその前提が無いのなら、登山者は山に入る自由を奪われても仕方ありません。 もし「何かあったら助けてもらえばいい」と考えているなら、それは社会に対する甘えです。 「迷惑なので山に入らないでください」と社会から登山を規制されても仕方が無い訳です。 だからこそ登山者は、できる限り自分で下山する努力を続けなくてはなりません。 自力下山は自分の登山を自分で締めくくるという、登山者のすべてが持つべき意志の延長であり、登山者が登山の自由を守るための行為でもあります。 |
個人的意見でも、登山とハイキングは断じて違うと思う。 ハイキングには敢闘の精神は無いし、不断の技術の鍛錬などが無い! もちろん命を脅かされる様な所には絶対行かないし、行けない。 時として油断や不注意が事故を起こさせるくらいだ。(トライの精神が元で引き起こした事故やケガなどではない!)
クライミングを除外した登山の中で、北鎌尾根はそれなりの技術と危険が伴うルートである。 山の総合力が試されると言ってもよい。 知識・体力・経験・・・、全てである。
せっかくのバリエーションルートをガイド登山や、山仲間・先輩と歩いたのではもったいない。 起こり得る全ての事を自分一人で解決処理しなければならない!という心細さや不安が無いし、少なからず傍にいる誰かを当てにしてしまう。 平成の現在、簡単に初登の栄光など望むべくもない好山病患者には、読図と観察、ルートファインディングが重要で、何もかも一人で決断してルートを決める単独行が好ましい。 不安と孤独と緊張、そして達成した時の感動を楽しみたいものだ。 自分にとっての初登も二度と経験出来ないのだから。
未知の山旅への期待と不安・・・、
いやその不安こそが楽しみなのだ。 by山こじ
登山口から前常念岳を経由して常念岳まで
少しだけ仮眠を摂り、自宅を出発。(0:00)
自宅を出る時に後ろ髪を引かれる気持ち(ビビッている)になり、何か気の利いた言葉を残したかったが、「いつもの登山だから無事に帰って来られるさ」と弱気な自分に喝を入れる。
いつも通りの山行と同じで深夜の中央高速をひた走り、名前が豊科から名前の変わった安曇野ICで降りる。市街地を通り抜け、登山口まで真っ暗な道を走る。
途中に大きな建物がある、蝶ヶ岳温泉「ほりでーゆ〜四季の郷」 だ。日帰り入浴も可能で登山者には嬉しい施設だ。
それらの施設の先にゲートがあり、林道を走る事10km以上奥まった所に三股の登山口駐車場がある。(04:00)
夏山シーズン真っ盛りなので駐車場は平日(金曜日の早朝)にも関わらず、車が多い。
ここを起点に1泊2日で蝶ヶ岳と常念岳を縦走する周回ルートで人気の登山口だ。 ブランドの装備で身を固めた懐具合の良さそうな年配の夫婦やカラフルな衣装の今どきの登山者が目に付く。彼らの楽しげな会話を耳にしながら、心の中では無事に踏破して帰って来られるのか? 不安と気負いで、カチカチになっている自分がそこにいる。
後戻りは出来ない!
いよいよ登山歴10年、
けじめの登山の始まりだ。
三股の駐車場から、さらに20分程林道を歩き、少し先の登山口で登山届を出す。
三股駐車場 登山口
いよいよ北鎌への出発だ、後には戻れない。(06:00)
常念岳へのルートは比較的に勾配が楽な一ノ沢のルート(稜線合流が常念乗越2466m)と、今回選んだ前常念岳を経由する急登の続く三股のルート(稜線合流が常念8合目)がある。 槍ヶ岳へ周回コースを採る山こじは後者で、帰路に蝶ヶ岳を通過する予定だ。
展望の効かない樹林帯が続く、暑苦しい道をジグザグに登りひたすら標高を稼ぐ。 約1年ぶりに背負う20`級のザックがひどく重く感じる。
風が通らぬ暑苦しいだけの樹林帯の道、急登に加え、ガスまで湧いてきては景色も何もない、ただひたすら足元を見つめ辛抱して登るだけだ。
標準点櫓跡 蝶ヶ岳への稜線
やがて道は稜線(標準点櫓跡2207m)に乗り、片側の展望が開けた。晴れていれば、蝶ヶ岳からの稜線が見えてくるのだが、今日は見えない。
大岩のゴロゴロした所を降りてくる年配の登山者が歩き辛そうにしていた、前常念岳石室に到着。(11:45)
さらに、もうひと頑張りで常念岳8合目に当たる常念小屋と山頂の分岐に到着。
前常念岳石室 常念岳8合目の分岐
頂上はすぐそこだし、小屋も眼下に見えている。ここまで来れば今日の行程は終わったようなものだ♪(12:58)
他の登山者と会話しながら休憩していると雷鳥の親子に遭遇! 小さな雛5羽が親鳥に連れられ、遅れてはならじと必死で後を追っていて可愛い。
雷鳥親子で心を和ませ頂上へ行くべく腰をあげる。((13:30)
雷鳥の親子 混雑している常念岳山頂
常念岳頂上(2857m)は元気な中高年で混雑していた。人混みはうんざりなので、撮影だけして、早々に退散。
ここから小屋までは下りオンリーなのだが、岩がゴロゴロしていて歩き辛い。八ヶ岳の編笠山から青年小屋に降りた時と似ている。
おかげで初日から膝がガクガクになってしまった。。
テン場ではツェルトで異彩を放つ元クライマーのナカイさんと出会い意気投合、一緒にビールと角のウィスキーで乾杯!♪ 初日から楽しい山談義(宴会?)だった。
常念乗越に建つ常念小屋
初日のテント場
元気なナカイさんと山談義
第2日目(7月26日 土)
常念岳から大天井岳を経由して貧乏沢を下降し北鎌沢出合まで
昨夜は飲み過ぎの疲れも手伝って寝てしまい、食べそこなった作り置きのアルファ米の五目御飯(2食入りパッケージ)にお湯を足し、雑炊にして一気に胃袋に流し込む。
(ん〜不味い!)
今回も毎食ごとの、罰ゲームがスタート!(とほほ・・・)
入山2日目が始まる
このルートは横通岳をトラバースしていてピークを踏まない。東天井岳もトラバースしていてほとんどアップダウンが少ない快適ルートだ。
短い夏を惜しむように咲き誇る花々が美しい。行く手の左側には去年歩いた、槍から西穂に続く稜線素晴らしいパノラマで拡がる。
花良し、眺め良し、体調良し♪
素晴らしい朝だ!
常念岳をバックに 登山道の脇にはお花畑
大天井岳(2922m)と市営大天荘
やがて、見覚えのある大天荘が見えてきた。そのすぐ後ろには大天井岳(2922m)控えている。 2007年の初北アルプス以来だ。
あの時は中房温泉から表銀座を槍ヶ岳まで行く鉄板のゴールデンコースだった。
今日のスタートから大天井まで来るのに、山こじを追い抜いて行ったのは唯一ナカイさんだけだった。 元クライマーだけあって、さすがに足が違う。
彼は大天荘を横に見て燕岳方面へ、立ち止まることも無く飄々と歩き去ってしまった。 今夜は中房温泉で宴会をするらしい。この余裕が熟年の山歩きかもしれない。
小屋の通過ごとの楽しみ、売店でコーラを買う時に、壁の黒板に書かれた天気情報をチェック。
「明日は朝のうち霧か雨」と書いてある。 少し天候が崩れ行く兆候なのだろうか? 「梅雨明け10日は良い天気」は高所では通じないのか?
最高の登山日和 頂上の祠
大天井岳頂上から常念岳方面
コーラで喉を潤し快晴の景色を楽しみ、7年ぶりの大天井岳頂上(2922m)を踏んでから大天井ヒュッテに向かう。(09:00)
ルートの所々には高山植物が咲き夏本番を思わせる。 大天井ヒュッテに到着。(09:35)
「高山植物の女王」 コマクサ 大天井ヒュッテ
大天井ヒュッテでは、ネットやヤマケイDVDでもおなじみの小屋番小池さんに会い、北鎌尾根のポイントを教えてもらおうと思っていたが、不在らしく姿が見えない。
ヒュッテの若者にカレーライスを注文して、他の登山者との山談義で時間をつぶした。
お昼も近くなり登山者が増え混雑して来たので出発。 貧乏沢の入口はすぐそこだ。
ここからは表銀座コースの華やかさとは打って変わって、好事家の山ヤだけの世界に変わってしまう。
例えるならば資格試験の時に降り立った渋谷駅前の雑踏のカラフルなファッションや、華やかな楽しげな顔の群集を横目に、試験会場へとゴルゴタの丘ならぬ、仕事と試験勉強が重なり、寝不足の重い足取りで進む老けた受験生の土建屋のみたいだ。(ずいぶん具体的だな 誰っ?・・・当時30歳の山こじ)
そう、ここから先は山ヤとしての力量が試される「北鎌尾根の試験会場」なのだ。
7年前も歩いた表銀座の西岳へと続く道は勾配が少なく歩きやすい。(さすがは喜作新道だ!)
登山道の右側の稜線が次第に低くなり鞍部に近づいて来たのが分かる。
そしていきなりその看板はあった。(11:34)
貧乏沢入口 ここからは好事家の領域
「貧乏沢入口」! いよいよ試験会場に着いてしまった。(試験会場の某大学の正門前?)
「カラフルな山ガールの御嬢さん、さようなら。
美味しかったヒュッテのカレーライスさん、さようなら?」
(色気と食い気への惜別・・・)
覚悟を決め(何かたいした覚悟じゃないな)入口の藪に体を突っ込む。 視界が広がる。 天上沢側に広がる別世界♪
藪を越えると別世界 いきなりのガラ沢
「んっ!誰かいる?ヘルメットを被った人がいる!
どんな物好きだ?」
(たぶん自分と同じだ!)
彼は、たかはしさんと言い、貧乏沢の偵察山行で来た。 彼も来年以降の北鎌にチャレンジするつもりらしい。 しばらくは彼と北鎌談義をしながら、藪漕ぎをする。
やがて、二人の前には雪渓が現れた。(12:30)
痩せた上部雪渓
歩き辛いガラ沢
「あっ・・・忘れていた!」
小池さんの北鎌情報に貧乏沢の上部と中間付近に雪渓が残るとあったのを忘れていた。二人ともアイゼンは所持していないしピッケルも無い!
山こじ、重大なミス! 北鎌沢の事や、独標直登に気をとられ、貧乏沢の事を安易に考えていた。
『ヤマケイDVD北鎌尾根の核心部@ 貧乏沢の下り』
危険を感じたので、ザイルを出して藪の細枝を支点にして下る事にした。(嘘です、既に1回転びました) 7o×20mをダブルで使うので1ピッチ10mの下降だ。
山こじが先行で下り、たかはしさんが後に続く。 合計3ピッチで上部雪渓は簡単にクリア出来た。 (先ずは第一関門通過だ♪)
さらに左岸の藪漕ぎとガラガラの涸れ沢下りを何度か繰り返していると、やがて中間部の雪渓が現れてた。
右岸には中間付近にあるという滝も見えている。 この雪渓は結構長かった。
上部の雪渓と同じよう迷わずにザイルを出す。 最初の支点から次の安定した所まで10mでは届かない!
ここで、たかはしさんは偵察を断念! 偵察を切り上げるという。 そして、戻る前にザイルを解除するからシングルの長さ全部の20mにして降りてみたらと提案してくれた。
灌木に巻き結びをした支点をたかはしさんに握ってもらい、山こじだけが下降。 降り着いた所は、まだまだ安全圏ではなかったが仕方がない。
ここでたかはしさんに支点を解除してもらい、立ち位置が上下と高低差のある所でお別れとなった。
山こじはたかはしさんの登り返しを心配し、たかはしさんは、まだまだ続くであろう、山こじの貧乏沢の下降を心配して「お互いの無事を祈る」しかなかった。
山ではすべての行動は自己責任だからだ。
貧乏沢中間部の滝
直径3a程の細枝 ギリギリの支点
この後もまだまだ難所が続き、10m×3ピッチの下降を行って、やっと中間部の雪渓をクリア出来た。
この先でもガラを降り過ぎて断崖で行き詰ったり(ゲっ!滝だぁ〜)、
左側の樹林の藪漕ぎで踏み後を見失ったり(ここは何処?)、
力尽きて呆然としたり(ヘトヘト・・・)困難は続く。
途中に一ヶ所だけ、ヒュッテの小池さんが設置した「お助け紐」を見つけ(15:19)、ルートが間違っていない事を確信してほっとしたり・・・。
そんなこんなで、山こじ的には大変な思いの連続で、ようやく天上沢出合に辿り着いた。(15:40)
お助け紐を見てほっとする やっと着いた天上沢出合
天上沢出合にて
実に4時間もの永い格闘だった。(予定では2時間30分)
北鎌尾根は最初からしょっぱいなぁ〜。(泣)
左岸からの合流に注意しながら、対岸に注意しながら進むと靴を濡らさなくても良いくらいの場所があり難無く左岸に渡れた。
そして格好のテン場を発見!と思ったら、そこは北鎌沢の出合とは、もう眼と鼻の先の距離であった。
最近使われたであろう綺麗に整地された一張分のテン場があり、今宵は先輩達と同じ場所で一夜を過ごす事が出来た。(16:10)
最高のテン場(水場近し!) 北鎌沢出合キャンプ場独り占め=独りぼっちともいう
天気が崩れる傾向なので、夜中も沢の増水が気になって起きたり、雨が降ったりしていないか耳を澄ましたりしていたが、星の綺麗な夜だった。
北鎌沢出合から北鎌のコルまで
いよいよ、北鎌アタックの朝が来た。曇天だが雨は降っていない、出発だ!(05:06)
(嬉しいのやら悲しいのやら・・・、遂に決戦の時は来た!)
多少の緊張と気負い(嘘です!目一杯の緊張です)で体調の悪い所など感じない、と言うより構ってなんかいられない。
来たときよりも綺麗にしよう 北鎌沢出合
『ヤマケイDVD北鎌尾根の核心部A 北鎌沢の急登』
北鎌沢出合から北鎌のコルまでは640mの登りだ。 最初は水流が見られるが直に伏流となる。
水は3g背負っているので、 水の見えるうちは沢の冷たい水(結果的にはこれが功を奏する♪)を飲む。 実に旨い!
◎沢水を飲んだり、ボトルに水を汲むのに便利な100均グッズ、使えますよ♪
折り畳み式コップ(左)ロート(右) ロートタイプは穴を指で塞げばコップとしても可
北鎌沢左俣・右俣分岐
右俣は涸れ沢
北鎌沢は分岐がある度に右へ、右へとルートを採るのが鉄則だ。 よく間違うと言われる右俣と左俣の分岐はすぐわかった。問題はこの先だ。
北鎌沢には行く手を阻む大岩が数カ所ある。 スリングが垂れていたりして、誘ってくるが、基本的に当てにしてはいけない!
いつ誰が設置したか分からないものに命を預けるは危険だ。 時間がかかっても、しっかりした手がかり足がかりを自分で探すのだ。
全域に渡ってこんな有様だから、岩小屋の様になっていて中に祠のある大岩では、思わず手を合わせて登山の無事を祈ってしまった。(06:14)
祠のある大岩
どこから登るのか弱点を探す
ゴロゴロの涸沢 一気に高度を上げている
しかし1回だけ右に行き過ぎて、不安定な草付を30m程登って行き詰り、分岐点に戻るのに酷い目にあった。
よく言われる「北鎌ホイホイ」(滑落死亡事故も起きている)みたいな危険な所までは行ってはいないが、この迷いやルート選択に苦しむ事こそ、単独の醍醐味で、決して無駄ではないと思う。 誰かの後続で迷う事など無く歩き、難無くクリアしていたら北鎌だってハイキングに成り下がってしまう。
ここで右を選んで酷い目にあったクライムダウンして左を進む
変だと思いながら登り過ぎてしまい、その結果が・・・滑落事故!!
これが北鎌のトラップ(罠)です。 「北鎌ホイホイ」も突っ込み過ぎた結果の滑落事故です。
(どんな状態だったか知りませんが・・・)
命を落とされた方も数知れませんが、滑落すれば痛い程度のけがでは絶対に済みません。
大事な足を捻挫や骨折で痛めて行動できなくなったら、自然界では命取りなのです。 動けないまま日没になれば熊の餌食です。
(後日、ヤマレコの写真を見て気が付きました。 ビバーグした所は北鎌のコルの一つ先のコルでした)
目標を間違っていたので、遭難プレートも見なかったし、テント2〜3張どころか、エアライズ2でも四隅が足りないほどの狭い空間だった。
夏と言えども標高が2500mだと寒い!
涸れ沢の登りで、大きく岩を乗越す事を考えて、今回は雨具のズボンだけ新調した♪
(予算の都合上です。だって2万円近い値段ですもの)
finetrack社のエバーブレスフォトンパンツで合羽なのに横ストレッチ率130%だ。
普段穿いている山ズボン自体もストレッチの製品なので、Wのストレッチ効果で着用していてもストレスなし!
好きなだけ足の上げ下げ、大股開きが出来て、自由自在に動ける。
しかし、満点はあげられない! 不満な点がある。 ウェストを締めるひもが無いので、工夫しなければ腰からズリ落ちてしまう可能性がある。
今回はハーネスをつけていたのでウェストの固定は大丈夫。
そして個人的な工夫だが、両足のひざ下は100均のゴムベルトで締めて膝の屈伸の繰り返しでのズリ落ちを防いでいる。
ひざ下のバンド締めは快適ですよ♪ ズボンの裾のズリ下がりを止めてくれます。
北鎌のコルまでもう少し
北鎌のコルまで最後のひと登りという所でさらに左にルートをとってしまい、嫌な草付に行き詰る。
慎重に踏み後をトラバースして、何とか分岐に戻り、やっと北鎌のコル(ひとつ隣の・・・)に到着。(08:41)
その頃の稜線は、すっかり雨雲の中に飲み込まれ雨脚は土砂降り状態だった。 天上沢を挟んだ大天井岳や西鎌尾根も既に雲の中だ。
とりあえず、テントのフライシートだけを頭から被ってしゃがみ込んだ状態で雨を凌ぐ・・・が、遂には雷鳴までが聞こえ始めた。
「もう駄目だ!寒くて指先まで悴んできた!
このままでは低体温症になってしまう。
ビバーグ(緊急幕営)に決定だ!」
雨の中大急ぎでテントの設営をする。
窮屈なスペースなので、ポールの4隅のうち2ヶ所は宙に浮いている状態なので、フライシートのペグも打てない! 四隅のジョイントを繋げただけで、テント本体に被せた。
北鎌のコルの一つ隣にてビバーグ
土砂振りは08:00からで、2500m付近の稜線に雨雲が引っ掛かり、北アルプス全体が雨雲の中に没した様だ。
テントの中で濡れた衣服を着替え、
体温の低下を防ぐ為、ダウンの上下を羽織り、
シュラフに足を突っ込み自力で温めるしかない。
水は明日の分が絶対必要なので温かい食事も作れない。
携帯の電波が届かない場所なので、連絡は取れない。
槍ヶ岳到着が1日遅れてしまい、
遭難かと心配をかけてしまうが、方法がない。
客観的にみれば充分に遭難予備軍だが・・・。
11:00過ぎには、あれほどの大雨が嘘の様に晴れあがり、午後には行動開始した方が良いのかと迷った。
しかし槍まで到達出来る訳ではないのなら無駄だと考え、ラジオを聴きながらウィスキーのストレートとチーズかまぼこで空腹をごまかし暇をつぶす。
背負っていた3gの水は、ここまでの登りで1g消費して残り2gまでに減っている。 北鎌尾根を歩く為には、ギリギリの水分量だ。この日はカップ半分×4回の水分摂取で我慢した。 ちなみにお昼のNHKのど自慢は、山こじの地元埼玉県狭山市からの放送だった。 誰か知り合いが出ていないか注意していたが、誰もいなかった。
濡れたものを乾かしたり、昼寝をしたり、稜線上のホームレスになったみたいだ。
嘘みたいに雷雲は過ぎ去った 牛首山(2553m手前)、大天井岳(2922m奥)
テントの右側は宙に浮いている
第4日目(7月28日 月)
北鎌のコルから独標を越え槍ヶ岳登頂! 悲願達成!!
いよいよ北鎌尾根本番である。 夜が明けきらぬ03:00に起きて
熊に厳重注意の夜明け前
一晩中ラジオをつけて熊対策をしていたが、歩き出すと其処らじゅうが熊の糞だらけだった。 やはり樹林帯は危険だ! 無事で過ごせたのが不思議なくらいだ。
次第に明るさを増しオレンジ色が拡がる
いきなり暗闇の中P8に向けての急登を登る。 P8付近から夜明け(04:39)を迎え、辺りがオレンジ色に染まり絶景が広がる。 今日は天気的には大丈夫みたいだ。
天狗の腰掛(P9)、独標(P10)が見える。 ここからは一つ一つの岩峰に集中しなければならない。 どれ一つとっても甘くみては大怪我のもとだ。
朝日が綺麗だった
ここで「鎌尾根とは何?」にお答えします。
左の明るい部分はスッパリと落ちている右のハイマツ側も急斜面だ
真ん中の砂利がある所だけが地面だ
槍ヶ岳には、ほぼ東西南北に稜線が伸びていて「北アルプスの十字路」とも称されます。
去年歩いた双六岳・樅沢岳からの西鎌尾根、 7年前に初の槍ヶ岳登山に歩いた表銀座とも言われる、大人気の東鎌尾根、何故か南鎌尾根とは言わず、一般ルートとしては最難関の槍〜穂を繋ぐ大キレット、そして今回挑戦するバリエーションルートの北鎌尾根です。
鎌尾根の「カマ」とは、草を刈る時に使う農機具の鎌で、その背の様に細く切り立った様な尾根の事です。
分水嶺にもなるその稜線の幅は狭い所では30p位しかありません。
転んだりしたら即!滑落して命の保障はあり得ません。 と言うより絶命必死でしょう。
P8 天狗の腰掛 P9
天狗の腰掛(P9))では、いよいよ独標(P10)が間近に迫って来る。 いよいよ今回の山行のメインイベントだ。
独標を直登するのも今回の目的の一つなのだ。
アップダウンを繰り返し、やっと独標の基部に到着。(06:00)
辺りにはビバーグ適地がいくつかあった。 ザックを下ろして休憩がてら、辺りを偵察する。
『ヤマケイDVD北鎌尾根の核心部B 独標のトラバース』
<P10 独標>
圧倒的な迫力で鎮座する独標 P10
直登左ルート 直登右ルート
◎先ず前衛の岩峰の左側の直登ルート。 ここは積雪期には3m位足元が上がるので、取り付きまで難無く手が届くが、無雪期では届かない。
最初の3mだけが核心らしいが、疲れた体で冒険するにはリスクが高すぎるし、空身の後ザックを引き上げるにしても引っ掛かりそうだ。
それにしても真正面からの攻略はカッコいい!
◎右のルンゼの直登ルート遠望して気が付いたのだが、トラバースルートに入ってすぐのルンゼも登って登れなくはないとは思うが、ザックが重い時は躊躇してしまう。
あれこれ難癖つけた消極的な考えで、独標直登という課題を逃げているように思うだろうが、情けない話それほどまでに体力は消耗していた。
とてもじゃないが冒険する気力など残っていないのだ。
トラバース入り口(渡る前) トラバース入り口(渡った後)
トラバースの入口には、これもたぶん小池さんの設置だと思うが、今年もお助け紐(緑色のロープ)が取り付けてある。
しかし足元は永年の通過で、さらに崩れて無いに等しい。 しかし、ロープに全体重を預けるのは危険だ。
ナイロンロープだから伸びて体が外に振られてしまうのだ。
注) くれぐれも言っておきますが、このロープは「お助け紐」であってフィクスされ強度のあるザイルではありません。 常設されている鉄鎖や鉄梯子とは違い、好意で取りつけたナイロンロープなので強度の補償はできません。 補助の中の補助と位置づけして利用には自己責任でお願いします。 ここは北鎌尾根というバリエーションルートです。 ここの通過で起きたことはすべて自己責任です。 |
ここでは抱き込む形になる大岩にも直接手がかりを探って、足掛かりも見つけて通過したい。
足掛かりはつま先部分だけでも引っかかれば充分体重を支える事が出来る筈だ。(06:04)
この先のトラバースルートは踏み後もしっかり残っていて、奥のザレた場所でも危険は感じない。 もちろん落ちればこの世とおさらばだろう。
トラバース道
潜り岩 潜り岩(なんとか通過出来た)
潜り岩通過後のテラスにて (痺れる高度感でしょ♪)
やがて問題の潜り岩だ。(勝手に命名しました♪) 一段下に足を乗せて頭を下げて楽々通過…と考えていたが、そんなに甘くはなかった。
ザックが大きすぎて引っ掛かってしまい、四つん這いでもつっかえ、さらに地面を舐める様に匍匐前進(第5レベル)よろしく、何とか通過できた。(汗、汗、汗)
立ち上がってみると、そこは一坪にも満たないテラスになっていて、直登ルート(?)が伸びている。(06:23)
3番目の直登ルート(勝手にうっちゃりルートと命名)ここを登った
5〜6m登った所からテラスを見下ろす(右側の1m×2m位の岩棚)
もうさっきの潜り岩には後戻りできないし、この先もトラバースは続いているが、ここは早く稜線に戻ってしまいたいと思った。
(じつは大抵の人がもう少しトラバースを続け、スリングのあるチムニーを登って稜線に戻っている)
水を一口飲み、覚悟を決めてフェイスに取りつく。 簡単な岩登りで一段上に上がる。
見上げるとハーケンが打たれスリングの垂れているチムニーが見える。もうひと踏ん張りと思い、さらにスリング垂れているの岩の直下に辿り着く。
同じ場所から上を見上げる
間近に見上げると結構高い位置にハーケンが打たれていて、その岩自体がハングしていて邪魔な様に見える。この先も決して楽ではなさそうだ。
しばらく悩むが覚悟を決め(覚悟とはこのトライで失敗し滑落して死ぬかもしれないという覚悟です)
「えいっ!」 「やぁっ!」と岩に取りつく。
手がかりはあったが、やはりその先がどうしようもない。
この体制のまま、しばらくは蝉の状態で悩む、悩む、悩む!(06:34)
取りついたが登れなかったチムニー(蝉になってしまった・・・)
多分違う,いや絶対間違っている!と思い、何とかクライムダウン。
きっとこれは積雪期のスリングだと勝手に考え、他のルートを探す。
(積雪期にはトラバースルートは危険過ぎて歩けない筈なのだがこの時はそこまで考えが及ばなかった。)
レポを書いている時に気が付いたが「やっぱり山が好き!のsudoさん」が1999年に打ち込んだハーケンが山こじのヘルメット越しに見える。
ヘルメットの右上にsudoさんの残置ハーケン
Sudoさんはこのチムニーの通過にスリングを投げ縄の様に使い岩角に掛けて登ったらしい。(さすが!)
この時のレポにあるB氏の通過した右側の足掛かり(2001年のsudoさんと同じ)を使って山こじも登る事が出来た。(06:52)
右側を巻いてみたら案外簡単にさっきのチムニーの真上に出て、ルートの違いで難易度が変わってしまう事を実感した。
いかに周囲の観察が大切なのかが実感できた。 岩稜地帯のルーファンミスは命取りになりかねない! だから必死になって考える。
しかし、一人で悩み苦しみルートを自分で見つける事こそがバリエーションであり、「こっちだよ♪」と教えられたのではハイキングである。
巨大迷路遊びに道順が標示してあったり、答えを知っている人の先導で後を付いていく様なものだ。
この先は傾斜も緩く難無く稜線に辿り着いた。山こじの心中では独標直登からトラバース(巻道)に逃げてしまったという後ろめたさがあったのだが、登りつめてみたら独標の頂上はすぐそこにあった。 このルートも3番目の直登ルートだった。(07:02)
独標のピークへ
独標ピークから振り返る
遂に見えた大槍 ロックオン!
独標からの眺めは素晴らしかった。ゴールではないのだが、ここまで到達した自分を褒めてあげたかった。
しばらく休憩し英気を養い、まだまだ大槍まで半分残っていると気を引き締め出発。(07:27)
『ヤマケイDVD北鎌尾根の核心部C 独標〜槍の岩稜帯』
<P11>
P11 一つ目は岩峰の間を抜ける
P11 二つ目は踏み後がしっかりある
次の課題はP11だ。ここは岩峰が二つ尖っている間をルートが通っており、大した困難はなかった。
でも一つ一つこれでもかと登場してくる岩峰には疲れる。 下調べはしてあるが、ルーファンミスは死に繋がるので、こっちも必死である。
ここは多少ザレていたが、難しい所も無く、陰に隠れていた岩峰を含めて2つの小ピークを越える(08:27)
<P12>
P12 ザレているが踏み後はバッチリ
次の課題はP12だ。ここでじっくりと観察。手前のピークから観察して不明な所は下りながらのチェックになる。
下る前に、またまた水を一口。 北鎌平に着くまでは水を節約しなければ心配なのだ。(08:37)
ここはP11から一旦下ってコルから登り返す。
眼の前にあっても、アップダウンが激しいので疲れる。 間近で観察すると白くザレていていやらしい。
それなりルートの目星をつけトライ! 多少足元が崩れて緊張したが、危険を感じるほどではなかった。(08:49)
<P13>
P13 嫌らしいザレた岩峰だった
ピークを一つ越える度に、一口の水で喉の渇きをいやしているが、本音で言えば喉をならしてゴクゴクといきたいところだ。
しかし、連続して登場してくる、手ごわい岩峰を前にすると、まだまだ油断など出来ない。
ましてや、水切れなんかに陥ったら最悪だ。大事に大事に一口づつの水を飲むしかない。
下調べによると、白くザレた嫌な感じとある。覚悟して掛かる。(08:57)
なるほどザレていて、足元が流される。後続がいないので、小砂利が流れる事など構わずに、一気に登りつめる。
ぷはぁ〜まいったぁ〜蟻地獄から這い上がったようなものだ。(09:33)
<P14>
P14
アングルを変えるとこんなに素晴らしいトラバースが伸びているが行先は無限トラバース
ここは下調べでチェックしておいて本当に良かった。
トラバース道がしっかりついていて誘われてしまいそうだが、入り込んだら北鎌平はおろか、大槍の直下まで行ってしまうらしい。
ここは完全に直登で、てっぺんを目指す。(09:44)
たいして困難な所も無く到着。(10:27)
眼の前にはいよいよP15と被って大槍がドーンと迫ってくる。
<P15>
P15 大槍と被っているが巻いて通過出来る
下調べによるとP15は巻いて抜けられるらしい。登ってもたいして困難とは思われないが、ここは体力を温存できるのなら、それに越したことは無い。しっかり踏まれたトラバース道が続き、下調べにあったテン場跡が有ったりして、ルートが正しいと確認する。
トラバース 振り返って
トラバースは続く テン場跡があればルートは正しい
しかし、それでもあまり長く歩くものでもないらしいので、登りやすそうな所を見つけ、稜線に復帰する。
難無く稜線に出ると、一瞬ここが北鎌平かと思ったが、北鎌平の一つ下のビバーグ適地だった。
ちょっとがっかりしたが、長居をせずにもうひと踏ん張りだ。(11:14)
ここから稜線へ復帰
前方には結構キツイ勾配の岩峰があって焦ったが、右側にルートが伸びていた。しっかりしたトラバースだが、ここも長く歩く訳にはいかない。ここだと思ったルンゼに取りつく。
右に廻り込んで・・・
グズグズの岩屑だらけのルンゼを強引に登り詰め、遂に北鎌平に到着。(11:43)
<北鎌平〜大槍>
遭難碑やペンキが落ちてしまったが、有名な「ここが北鎌平」と書かれていた、大石を見つける。
先輩岳人の遭難碑 ペンキが剥げているが「ここが北鎌平」の大岩
遂に待ちに待った、北鎌平だ。 喉をグビグビ鳴らして水を飲むことが出来た♪ 残り500tだ。
ここから見上げる大槍は何処から登ったら良いのか分からない。
剱岳に負けず針の山だ!
圧倒的な迫力の大槍
小休止の後、残り少ない北鎌尾根をゆっくりと大事に登り始める。 最後の最後に油断をして怪我でもしたら、元も子もない。
大槍の左方向に踏み後が続いており、トレースする。 やがて下のチムニーと呼ばれている場所に到着。(12:35)
下のチムニー
ここは右に巻いて先を急ぐ。やがて上のチムニーに到着。(12:41)
ウェストンも登った上のチムニー
結構厳しい登攀
ここは避けては通れない。ウェストンも通ったという有名なチムニーだ。ちょっと難しそうなので観察してイメージを作る。 先ずは左足、右足と掛けて一段上がり、両手突っ張り左足の位置を少しづつ上げて右足を掛ける。 最後にハングして邪魔をしている大石を乗り越える・・・。たぶんこんな感じだったと思うが、一瞬だけ肝を冷やした。ハングした岩を乗り越す前に握力頼みになったのだ。
今、岩を離してしまったら即死間違い無し!
アドレナリン大放出!!!
事なきを得たが、最後の最後まで苦しめられた。 チムニーを越えて左横を見ると「白杭」が見えた。
その方向に歩くと、驚くほど近くに頂上の人達がいる。二階の人と話をしているみたいに「すぐそこっ」て感じだ。
頂上だ!
頂上で写真を撮っている人に「祠はどの辺ですか?」と尋ね、遂に登頂!
頂上にいた5〜6人の登山者から賞賛の拍手で迎えられ、
誇らしいやら、照れくさいやら・・・、
でも最高に嬉しかった!(12:54)
遂に北鎌尾根踏破!
いつもと同じ頂上だが今年は格別! 去年の乾杯とは別格だ!最高!!
祝 悲願達成!!
・・・・真っ白になっちまったゼ・・・・
(あしたのジョー風に)
翌日の行程を考えると少しでも下に降りていたかったのだが、魂の抜け殻の様になってしまって気力がわかない。
足にも相当きていると思われるので、今夜は小屋泊まりを決め、腹に溜まる物を昨日の朝から食べていないのに気が付き、槍ヶ岳山荘でカレーライスを注文。
この時の祝杯のビールの味は一生忘れられないものになった。
槍ヶ岳山荘から怒涛下りを11`、槍沢ロッヂでお弁当(朝食♪)
今日は出来る事なら、車のある三股まで戻りたい。 小屋の美味しい夕食を食べたら、あの地獄の罰ゲームと称するアルファ米はもう食べたくない。
結局8食も担いできて消費したのは3食だけだった。 山食については今後の課題だ。
日の出を頂上で見る人達が早くから、待ち構えていて、学校登山の団体もいる。
外はまだ暗いが一般登山者の渋滞に飲み込まれない前に出発。(04:17)
槍沢にも雪渓が5箇所くらい残っていて、アイゼンの無いストックだけの不安な下降を強いられる。
そして・・・、遂にやってしまった!
あと2m程で雪渓が終わるという所で、すってんころりん!
後ろには、まだ誰も歩いていなかったので失態を目撃されることはなかったが、大事なストック(名刀LEKI)が一本折れてしまい使用不能になってしまった。
まだまだ雪渓は続いているのに先が思いやられる。(05:11)
ケガは無かったがストックが一本に折れてしまった
長い雪渓は草付に逃げたりしながらやり過ごし、やっと水俣乗越に到着。(06:41)
水俣乗越
赤沢岩小屋 槍沢ロッヂ
ババ平、赤沢岩小屋、槍沢ロッヂとひたすら歩き、やっとお弁当休憩(朝食だぁ♪)。
同じ系列の山小屋なので何も買わなくても文句は言えないだろうと、槍沢ロッヂのベンチで槍ヶ岳山荘のお弁当をいただく。 旨い!!(07:23)
槍ヶ岳山荘のお弁当は名物のちまき弁当
さらに二の俣、一の俣と過ぎ、横尾に到着。(08:50)
二の俣
横尾大橋
ここで横尾大橋を渡ると上高地で一番華やかな涸沢という所に行けるらしいが、髭面のむさいオッサンには縁が無い世界だ。
今どきの山ガール達がいっぱいいるんだろうなぁ♪
横尾まで槍から11`もの道程を下って来た。ここからは蝶ヶ岳への登りとなる。(09:03)
11`の下りの後は1000m以上の登りと1400mの下降!
避暑地上高地と言えども、日が昇って樹林帯の登高となれば暑い!
風など吹き抜ける事など無いジグザグの道をひたすら登り、槍見台に到着。(09:32)
槍見台
続いて、なんちゃって槍見台に到着。(10:18)
こっちの方が素晴らしい
最後の登りと思い力を出し切って遂に稜線に到着。 西穂から〜槍の最高の景色の中、蝶ヶ岳ヒュッテに到着。(12:27)
さっそくエネルギー補給、カレーライスとコーラで乾杯♪
最高の展望
あれを登って来たんだなぁ
蝶ヶ岳ヒュッテ
既に8時間もの登下降で、足が参ってしまった。 しかし、これを下れば三股だ。(13:14)
温泉が待って居るぞ、御馳走がまっているぞ、柔らかい布団が待って居るぞと自分に鞭打って気合をいれる。
下り出したらすぐに右膝が悲鳴をあげた。 酷使しすぎたみたいだ。 騙し々下るが、痛みが治まらない。
体重を支えているストックも片方だけなので、掌も限界だ。
途中で2度ほど鎮痛剤(ロキソニン)を飲むが、まったく効かない。 後続の人には追い越されて、先行して遊びながら歩いている親子連れを追い越すことも出来ず、ボロボロの状態で三股に到着。(16:04)
まめうち平 本沢の吊り橋
三股 5日振りに帰還
<下山後>
ボロボロになった右膝と自分への褒美に蝶ヶ岳温泉「ほりでーゆ〜四季の郷」に泊まった。
綺麗な部屋と温泉、何よりも美味しい料理に舌鼓を打ち、大満足の山行だった。
髭面の山男でも宿泊可能でした (株)ほりでーゆ〜四季の郷(市営ではなくなりました)
綺麗でふかふかなベッド